気候問題への金融規制が経済損なう恐れ

2021年01月05日

バラク・オバマ氏は民主党の大統領候補指名を確実にした2008年6月、未来の世代が現在を振り返って「海面水位の上昇ペースが鈍化し、地球の傷が癒え始めたのはこの時だった」と言うことを期待すると語った。


 その通りにはならなかった。オバマ政権は、気候変動の抑制を目指すパリ協定の交渉進展に寄与したが、この自主的約束による温室効果ガス排出量削減の効果は、最も強硬な環境保護主義者らが予想していた通り最小限のものだった。対策の効果を分析するクライメート・アクション・トラッカー(CAT)のサイトによると、パリ協定の基準を満たしたのは2カ国だけだった。モロッコとガンビアに拍手を送りたい。
 バイデン氏のチームが、国内外で最も緊急を要する優先政策の1つだと信じる環境保護の課題に取り組む際には、不都合な真実に直面することになる。民主党が、ジョージア州の2つの上院議席をめぐる決選投票で勝利し、上院の支配権を得たとしても、バイデン次期政権が、気候変動関連の重要法案を議会通過させるためには、ジョー・マンチン上院議員(民主、ウェストバージニア州選出)のような懐疑派の議員を説得して、議事進行妨害を回避するための決議を支持させる必要がある。上院議員の3分の2の賛成が必要となる協定の批准は、実現不可能であり、法的拘束力を持つ国際的な気候変動抑制の合意を確固たるものにすることはできない。
 国内的には常に大統領の署名という手がある。トランプ政権下での環境保護局(EPA)の規制面の決定を覆すには時間がかかるが、政府全般にわたる何百もの規制や調達の決定を変更すれば、大変な変化が起きる可能性がある。フラッキング業界へのメタンガスの排出基準強化から、建造物、自動車などあらゆるものに対するエネルギー効率の基準強化に至るまでの分野で、規制担当者らは、化石燃料の生産と使用を困難にし、コストを高くすることができる。
 しかし、依然として便利ではあるものの、従来的な規制の圧力は過去の戦術だ。環境保護論者たちは、資本の分配を促す金融システムや、政府や中央銀行が投資判断に及ぼす大きな力が、気候変動対応のために彼らが押し進めようとしている大規模な地球規模の変革を実現するカギになるとの見方を強めている。
 この戦略のカギは、気候変動を金融システムのリスクの1つと定義することにある。潮位の上昇で株式市場が落ち込む可能性があるのであれば、市場の急変を防ぐことを目的とする監視権限が発動され得る。銀行、国際的な金融機関、ヘッジファンドやその他の市場参加者にグリーンな行動計画を課すためだ。規制当局は地球に悪いと思われる投資や活動を罰するような会計基準を義務付けることが可能であるほか、証券取引所はいつでも上場企業に対し、従来的な環境保護論者が有用だと考えている基準に従うよう求めることができる。
 次期財務長官に指名されたジャネット・イエレン氏は長年、気候問題で「タカ派」の立場を取っている。活動家らは、同氏が財務省の幅広い規制・監視権限の積極的な使用を促し、グリーンな政策課題を押し進めることを期待している。
 連邦準備制度理事会(FRB)も、それに加担する公算が大きい。FRBは4月までに75の中央銀行が加盟する気候変動に焦点を定めた団体「気候変動リスクに係る金融当局ネットワーク(NGFS)」に加盟するとみられる。FRBは先月の金融安定報告書で初めて、気候変動に基づくリスクが金融システムに与える影響に触れた。世界銀行と国際通貨基金(IMF)は既に、借り手をより「気候にやさしい」政策に向かわせようとしている。欧州と米国が圧力をかければ、双方の機関がこの分野で劇的に活動を増やす公算が大きい。
 (金融システムの健全性を包括的に監視する)プルデンシャル規制制度は、行政国家が持つ手段の中で最も強力かつ最も基本的なものである。環境保護派がこの制度の友好的な乗っ取りに成功すれば、投資家、企業の行動に及ぼす影響は多大なものとなる可能性がある。
そのもたらす結果は予測不可能で、その多くは必然的に逆効果をもたらすだろう。複雑で絶え間なく進歩する世界の金融市場を規制することは、極めて重要であると同時に困難である。たとえ気候変動対策上の理由から正当化できるものであったとしても、さらなる規制の層を加えれば、各国の財務省や中央銀行は基本的役割を遂行することができなくなる恐れがある。環境活動家らが、深刻でほとんど把握されていない経済的な結果につながる規制措置を促すだけではない。特定の利益グループも補助金を引き出し、金融システムの中枢にバイアスをかける絶好の機会を手にするだろう。
 金融規制を「聖杯」と見なすのは環境活動家たちだけではない。社会改革の実現のために中央銀行や財務省の巨大な力を展開させることは、あらゆる種類の活動家にとって主要目標になりつつある。気候変動に対する運動は、早期の結果達成という点で最高のポジションにあるが、他の社会的運動も躍起になってこれに続こうとしている。
 世界の金融市場を通じて拡散する社会的規制に関する巨大な波は、短期的には活動家を満足させ、規制を承認した政治家たちに活動家の称賛をもたらすだろう。しかし、過去何十年にもわたる気候変動に対する政策の失敗は、気候変動対策に基づく国際的な金融規制の新たなうねりが、海面の上昇を抑えるよりも、世界の経済成長を鈍化させる可能性が大きいことを示唆している。  


Posted by yeaafter at 16:23Comments(0)